　【明慧日本2025年6月11日】（ニューヨーク＝明慧記者・宇澄）「記録新聞」と称される『ニューヨーク・タイムズ』紙は、なぜ中国共産党（以下、中共）による法輪功（ファールンゴン）への迫害の残虐行為を繰り返し報道せず、中共の宣伝の影響を拡大し、極めて深刻な結果をもたらしたのか。法輪大法情報センターが2024年3月に発表した英文調査報告は、次のように指摘している。

　主な調査結果

　中共（CCP）が法輪功という精神修煉団体を完全に根絶しようとして繰り広げた暴力的な弾圧運動は、現在の中国における最も深刻な人権危機の一つである。この迫害は数千万人の人々の生活に影響を及ぼし、数十億ドル規模の経済的損失をもたらしている。にもかかわらず、この重大な事件はメディアによって深刻に無視され、被害者はほとんど切り捨てられ、さらに中傷されている。

1999年から2023年にかけての『ニューヨーク・タイムズ』による法輪功の描写。赤色は不正確または否定的報道、ブルーは中立的または肯定的報道　、グレーは無作為報道（資料提供：法輪大法情報センター）

　誤報の蔓延

　『ニューヨーク・タイムズ』の報道は、法輪功に関する問題において深刻かつ無責任に事実を歪曲し、法輪功の本質に対しても、中共による迫害の規模に対しても事実に反している。報道しないことや誤報は、広範な影響を及ぼし、中国国内のみならず、世界中の人々に悪影響をもたらしている。

　頻発する不正確な報道

　『ニューヨーク・タイムズ』による法輪功の報道には、数多くの事実誤認が含まれている。それらの誤りは、比較的軽微な表現ミスから、より有害なレッテル貼りに至るまでさまざまであり、法輪功という団体に対する偏見や憎悪を助長する結果となっている。同紙は、法輪功が掲げる「真・善・忍」という理念や信仰について、主に不正確かつ否定的な記述を行っており、その内容はしばしば中共の宣伝的な中傷の論調を踏襲している。

　共産党の迫害の手口を無批判に踏襲

　1999年7月に中共が法輪功に対する暴力的な迫害運動を開始して以来、『ニューヨーク・タイムズ』の報道は一貫して中共政府寄りの情報源に依拠してきている。同紙は、中共政権の主要なプロパガンダを批判することなく繰り返し報じ、まるでその論調を内面化したかのようである。こうした傾向は長年にわたって続いており、たとえその内容が、同紙初期の報道や、国際人権団体による継続的な調査結果と明らかに矛盾していたとしても、修正されることはなかったのである。

　法輪功迫害への沈黙

　過去25年間、『ニューヨーク・タイムズ』は、中共による法輪功学習者への残虐行為、特に良心の囚人に対する強制的な生体臓器収奪について、ほとんど沈黙を保ち続けている。驚くべきことに、こうした人権侵害が依然として大規模に続いているにもかかわらず、2016年以降、同紙は中国における法輪功学習者への人権侵害について、1本の特集記事も発表していない。

　同紙は、国際人権団体の重要な報告書や、2019年に発表されたロンドンの「中国法廷」による強制臓器収奪の調査結果を無視し、監禁・実刑判決・拘束中の死亡といった、すでに広く報道されている個別のケースにもほとんど触れていない。さらに、少なくとも1人の元同紙記者が、法輪功学習者および他の良心の囚人に対する生体臓器移植濫用の実態を調査しようとした際、編集部から制止されたと証言している。

　競合メディアとの比較

　『ニューヨーク・タイムズ』は、法輪功に対する人権危機の初期段階において、他の主要新聞社と比べて明らかに異なる報道姿勢を示していた。同紙は、法輪功の信仰を歪めて報じたり、中共指導部との関係改善を重視する姿勢を見せる一方で、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙や『ワシントン・ポスト』紙などの競合メディアは、法輪功への弾圧がもたらした人道的影響や、中共政府によるプロパガンダの虚偽性について、先駆的な調査報道を行っていた。そして2019年には、英国の『ガーディアン』紙や『ロイター通信』などが、「中国法廷」による生体臓器強制摘出の調査結果を取り上げて報道したのに対し、『ニューヨーク・タイムズ』はこれらを一切無視する姿勢を取り続けた。　

　ウイグル人、チベット人の報道との比較　

　『ニューヨーク・タイムズ』が、中国における他の宗教・民族グループ（たとえばウイグル人やチベット人）が直面する人権危機について報道してきた実績と比較すると、法輪功に対する沈黙は一層際立っている。ウイグル人やチベット人の人口は、中国国内の法輪功学習者の人数と比べればはるかに少ないにもかかわらず、2009年以降、同紙はこれらの民族に関して数百本におよぶ記事を掲載し、調査報道や、拘束された人々への共感的な記事、さらに学者や当事者による寄稿も多数掲載している。これに対して、法輪功に関する迫害報道はわずか7本に過ぎず、しかも法輪功学習者本人による寄稿記事は1本も存在ししない。

　経年変化による歪みの増大

　近年、『ニューヨーク・タイムズ』による報道の問題はさらに深刻化している。同紙は、法輪功学習者が受けている人権侵害に対して完全に沈黙を貫いているだけでなく、法輪功学習者が設立した団体に対して公然と敵対的な記事を複数掲載している。これらの否定的な記事は、過去の誤報を繰り返すばかりか、新たな事実誤認も含まれており、結果的に中共の目的、すなわち、法輪功を中傷し、党内の批判的な声を封じることに奉仕する内容となっていいる。

　失われた命と情報の欠落

　『ニューヨーク・タイムズ』による法輪功学習者への歪んだ報道、ならびに彼らを「報道に値しない被害者」として扱う無責任な姿勢は、加害者らが法的責任を問われずに済む状況を助長し、被害者が本来受けるべき国際的支援を奪い去る結果を招いている。そのことが、中国本土における法輪功学習者、さらには一般市民にとって、より深刻な苦しみや命の喪失をもたらしたことに疑う余地はない。

　また、中共による法輪功への迫害は、インターネット検閲、公共監視、強制労働、法治の欠如といった中国社会の日常的な問題とも密接に関係している。このような背景を踏まえると、同紙が法輪功に対して沈黙を続けていることは、政策立案者や企業関係者にとって、現代中国への対応に不可欠で重要な情報を欠落させることになっている。

　『ニューヨーク・タイムズ』の歪曲報道により利益を得る中共

　対照的に、中共は『ニューヨーク・タイムズ』の報道から多大な利益を得ている。それは、法輪功を社会の片隅へ追いやり、その弾圧を隠蔽するという中共の戦略を後押しするとともに、国内外での反法輪功プロパガンダに「信頼性」という仮面を与える結果となっている。一方で、同紙は法輪功に対する中共の組織的な宗教迫害に対して黙認の姿勢を取り続けることで、中共当局からの報復を回避し（あるいは何らかの利得を得た可能性すらあり）、結果として中共政権に迎合する形となる。

　報道に携わる者として注目せざるを得ないのは、『ニューヨーク・タイムズ』は1851年にヘンリー・ジャーヴィス・レイモンド氏とジョージ・ジョーンズ氏によって創刊されて以来、政治・社会・文化などあらゆる分野を網羅する真剣な報道姿勢と深みのある記事によって、高い評価を築いてきたのである。

　かつてはアメリカ自由主義陣営の代表的な新聞として、読者に質の高い報道を届けることを使命としてきた。しかし、そのように数世代にわたる努力によって築かれてきた名声ある新聞が、過去26年間にわたり、法輪功という全世界にとって、また『ニューヨーク・タイムズ』自身にとっても重大かつ現実的な影響を持つテーマについて、誤報・偏報・沈黙という形で報道責任を果たしてこなかったという事実がある。では、なぜこれほどまでに信頼を築き上げてきた新聞が、この問題においてつまずいたのか？　その根本的な原因は何なのだろうか。