　【明慧日本2025年7月21日】神から伝わる文化、五千年に及ぶ中華文明の核心は、徳を重んじ、善行を実践し、天を敬い、命運を知ることにありました。

　名声や利益に執着せず、欲望、とくに色欲には心をとらわれぬよう戒めました。儒教・仏教・道教の三つの教えは、それぞれに明確な戒めを持ち、人々に内面の清らかさを求めてきたのです。

　しかし、文化大革命の10年間はそれに反し、天に逆らい、古の聖人たちを公然と批判し、知識人や賢者たちを迫害するという暴挙が起きました。その結果、道徳は衰え、礼儀と音楽（礼楽※）によって保たれていた秩序も崩壊し、享楽と快楽が世にあふれました。人々の中にある魔性が露呈したからです。

　※訳注：礼楽（れいらく）とは、慎みある礼儀と、心なごませる音楽のこと。中国では世の秩序を保ち人心を感化する働きを持つものとして尊重されてきた。

　この「魔性」を取り除かなければ、悟りや救済の彼岸に至ることは叶わず、色欲を断ち切れぬ者はまさに地獄の道を歩むことに等しいのです。

　だからこそ、道を踏み外した者に立ち返るよう呼びかけたいと思います。欲を少なくし、心を清らかに保ち、過去の失敗から学びながら、善悪の結果が常に己に従うことを忘れずに生きてゆくべきでしょう。

　一、伏羲が定めた結婚の制度

　三国時代、蜀漢の学者・譙周は著書『古史考』の中で「伏羲は結婚の仕組みを作り、鹿の皮を結婚の贈り物（結納品）とした」と述べています。つまり、伏羲は人類に初めて結婚の制度をもたらし、一夫一婦制度を定めたというのです。鹿の皮を結婚の証として贈り、また、飼っている動物や植物、住んでいる場所、役職などを姓（名字）の由来としました。これは、混乱した結婚関係や近親婚を防ぐためでもありました。

　【賛辞】

　五千年の文明は、三皇の基によって築かれ、

　伏羲は卦を創り、さらに礼制を定めました。

　男女の別を明らかにし、天を敬い地に倣うのです。

　陰陽が調和し、この制度は万代に渡って変わりません。

　二、黄帝、妻を娶る

　古代中国には「四大醜女」がいましたが、その中でも最も有名なのが黄帝の妻・嫫母（ぼぼ）です。彼女は容姿こそ美しくなかったものの、高潔であったため、黄帝は彼女を妻として迎えました。

　黄帝は「美しさばかりを重んじて徳を軽んずるのは、本当の美しさではない。徳を重んじて容貌を問わぬ者こそ、真に賢き人である」と語りました。（『呂氏春秋・遇合篇』には、嫫母が黄帝の傍に仕えていたことが記され、黄帝は「汝の徳を大切にし、それを忘れることなく、正道を貫いて衰えないのであれば、容貌など何の問題もない」と述べたとされる）

　『黄帝内経』の「素問・上古天真論」では、次のような古代人の生活哲学が語られています。「昔の人々は、陰陽の道理を尊び、術数の理（自然の摂理）に調和し、飲食は節度を守り、生活は規則正しく、無理に働かず、心と体を調和させ、天命に従って寿命をまっとうした。百歳まで生きることも不思議ではなかった」

　しかし今の人間はそうではなく、水のように酒を飲み、欲望に身を任せて乱れた生活をし、酔ったまま交わり、精気を浪費し、精神を消耗しています。自らの限界を知らず、身と心をコントロールしようとせず、快楽を求めることを優先し、自然な生に逆らうような生き方をしています。そのため、50歳にもならないうちに衰えてしまうのです。

　【賛辞】

　五帝の治世は、徳を最も尊ぶものでした。

　黄帝が徳ある妻を娶ったのは、天の意志にかなったことです。

　『内経』は欲を慎み、真の本質を保つことを説きます。

　このような生き方が華夏（中国）を繁栄に導き、万古不変の功績を築いたのです。

　三、桀王、妹喜を寵愛する

　夏王朝の最後の王・桀（けつ）は、体が大きく力も強かったものの、酒色に溺れ、妹喜（ばっき）※という女性を溺愛して政治をほったらかしにしてしまった。忠臣たちは「色に溺れることは、国を滅ぼすもとです」と諫めました。

　※訳注：末嬉、または妺嬉ともされる。

　すると桀は「民は男女がそれぞれに暮らし、衣食足りて、同じ車に乗り、夫婦がいつも一緒にいると聞く。朕は国の君主として妹喜と共に楽しんでいるだけで、それのどこが色に溺れるというのか？」と返しました。しかしその後、　商の王・成湯によって討たれ、南巣へ追放された末、自ら火を放って命を絶ったとされます。

　【評語】

　桀は傲慢で手に負えず、自らの武力を過信した。妹喜に夢中になり、忠臣の進言にも耳を貸さず、ついには徳がすたれて国を滅ぼしました。それはまさに自滅です。栄えるも滅ぶも天の道理。武力だけで国を治めることなど、本当にできるものでしょうか？

　四、紂王、妲己への溺愛

　商の最後の王・紂王（ちゅうおう）は、殷王朝の暴君として知られています。頑固で独断的、人の諫めには耳を貸さず、妲己（だっき）という女性を溺愛し、政治を顧みなくなっていきました。妲己の言葉に従って非道な行いを重ねたため、諸侯は彼を見限り、民衆も深く彼を憎みました。

　そこで、周の武王（ぶおう）はこれら苦しむ民を救うため、諸侯を率いて「民のため、天命に従い、罪を討つ」として商への討伐に立ち上がります。

　もはや誰も紂王に従わず、家臣にも見捨てられ、自らも滅亡を悟った彼は、玉で飾った衣を身にまとい、鹿台に火を放って自害しました。

　【評語】

　過去の失敗を教訓とせず、桀王よりもさらにひどく、道に背き、天命に逆らい、妲己ひとりを寵愛し、諫言を拒み、権力を私（わたくし）しました。武王がこれを討伐せんとその腕を振り上げたとき、すでに紂王の身内も民も去っていました。

　五、坐して懐（ふところ）を乱さず

　柳下恵（りゅうかけい）は、春秋時代の魯国にいた柳下邑（りゅうかむら）の人で、彼が女性と同席しても心を乱さなかったという話は広く知られています。その精神を示す、ひとつの物語があります。

　魯国でひとり暮らしのある男性の家の近くに、これまた独り身の未亡人が住んでいました。ある大風雨の夜に、寡婦の家は嵐で倒壊してしまい、彼女は寒さを避けるため、男性の家を訪れて助けを求めました。ところがその男は、彼女を家に入れなかったのです。

　寡婦は言います。「なぜあなたは柳下恵（りゅうかけい）のように、寒さに震える女を抱いて温めてあげないのです？　柳下恵の行動は非礼とされていませんよ」

　それに対して男はこう答えました。「柳下恵だからこそ、それができたのです。私は柳下恵ではありません。私は『開けない』ことをもって、柳下恵の『開けた』徳に学ぼうとしているのです」

　【賛辞】

　君子の徳は、時代を超えて芳香を放ちます。それは、独りでも節度を守り、道を踏み外さず、綱紀を乱さないことです。その姿は後の世の模範となり、「開けぬ」ことと「開ける」こと、そのどちらにも学ぶ価値があるのではないでしょうか。まさに称賛に値する在り方です。

　（続く）