文／甘露

　【明慧日本2025年9月6日】唐代の弁機和尚は、若くして高潔な志を抱き、風格も並外れており、15歳で出家した。玄奘（三蔵）法師の経典翻訳の助手の中でも、彼は才知に優れ、玄奘の『大唐西域記』の編纂に助力したことで、一時は名声を轟かせた。

　しかしその後、高陽公主（こうしゅ、中国における内親王のこと）から贈られた皇室の御枕を密かに所持していたことが露見し、唐の第2代皇帝・太宗は高陽公主と弁機和尚の間に不義があったのではないかと疑い、激怒して弁機を死罪に言い渡した。弁機は市中で腰斬※に処された。

　※訳注：腰斬（ようざん）とは罪人の胴体を腰の部分で切断する死刑

　玄奘がかつて大きな期待を寄せ、衣鉢を継がせようとした高弟が、色欲によって一瞬にして破滅したのである。「色」という字の上には刀が載っている。現代人は「色」の問題を軽視しているが、これは人を滅ぼす鋭利な剣である。古人は「色を避けることは矢を避けるが如し」と言ったが、これは決して誇張ではない。

　わいせつな作品の拡散は犯罪である

　清朝に高某という読書人（訳注：教養人のこと）がいた。絵画を得意としていた。清明節の頃、多くの人々が凧を揚げ、その凧には様々な美しい図柄が描かれていた。高某は自ら凧を作り、その上にわいせつな絵を描いた。凧を揚げていると、突然、天から炎が降ってきた。高某は炎が降ってくるのを見るや否や、慌てて逃げようとしたが、その炎はまるで目があるかのように彼を追いかけ、彼の身体中を焦がし、顔も焼き尽くしてしまった。

　事理を弁（わきま）える者は皆知っていた。高某はわいせつな絵を描いたために天火によってその容貌を失ったのだと。

　現代のネット、書籍、絵画、新聞雑誌、メディア、彫刻、ゲーム、映画、テレビなどには、大量のポルノ的な腫瘍のような毒が存在し、その感染の広がりは甚だしく、人を深く害している。その中には芸術という華麗な衣をまとって世間に見せつけ、あらゆる手段で私欲を満たすものもある。人々はその中に深く沈み込み、楽しんでやまないばかりか、すでにその価値判断の感覚が麻痺してしまっている。

　共産主義という赤い魔は中国の伝統文化を破壊し、人々の心から善を求める種子を抜き去った。そのため、神に対する違背や冒涜的な言動、性の倒錯、魔性的な芸術、色欲を刺激する産業、賭博、薬物などが世間に常在化してしまった。迷える人々はそれらを自分の思いや願望だと錯覚し、人類の是非・善悪に対する判断力は大きく傾き、歪められ、正誤逆転し、人々はすでに滅亡の淵にありながら、そのことに気付いていない。

　宋代の名詩人・黄山谷（庭堅）は、艶めかしい詩を好んで作ったことがあった。あるとき、彼は円通秀禅師を訪ねたが、禅師はこう呵責（かしゃく）した。「大丈夫たる者の筆墨の妙を、甘んじてこのようなことに費やすのか」（訳注：真の男よ、どうして書の才能をこんなことに浪費するのか）。これは、秀禅師が李伯時の馬の絵を戒めた※のと同じく、黄山谷を諫めた言葉であった。

　※訳注：李公麟＝字（あざな）が伯時（1049年 - 1106年　北宋の文人）は禅に耽り、禅僧と多く交わった。ある日、禅僧・法秀が突然「馬を描いてはならぬ、死後に〔輪廻により〕落ちて馬になってしまうぞ」と戒めた。李公麟はこの言葉で悟り、以後は馬を描かず、諸仏を画くことのみに専念した。

　山谷（黄庭堅）は「まさか私も馬に生まれ変わるのですか？」と笑った。すると秀禅師が「伯時は馬のことばかり思っていたので馬に生まれ変わったのは個人の問題に過ぎぬ。だがあなたは艶詩を書いて天下の人々の淫心をかき立てた。その罪は馬に生まれ変わるどころか、地獄があなたを待っていることだろう」と言った。

　黄山谷はこれを聞いて恐れをなし、深く恥じ入って辞去し、それ以後は筆を絶ったという。

　古代において淫書とされた『金瓶梅』※の作者・蘭陵笑笑生の子孫は三代にわたって全員が唖者となり、後の子孫も凡庸で身分が低く、五代後には絶家した。

　※訳注：金瓶梅（きんぺいばい）は明代の長編小説で、四大奇書の一つ

　猥褻（わいせつ）な内容を主題とするものを世に広める行為は重大な罪である。それは人々の淫らな心をあおり、旺盛なエネルギーを邪淫に浪費させ、俗世の迷いに陥らせる。猥褻なものを広めた者には、人々を毒した業力が自らに返ってくるため、自分の事業や寿命を損ない、子孫にまで災いを及ぼす。

　異世界の狐の妖怪、辱めの恨みを晴らすために来る

　古語に曰く、「人は欺けても、天は欺けない」。天は公平無私であり、善悪の報いを司る。善を行えば福があり、悪を行えば災いがある。

　即墨（山東省青島市）の高僧・楊槐亭の語った話によると、済寧のある少年が狐の妖怪に取り憑かれ、毎晩その狐と共寝していた。少年が20歳を超えても、狐はなおも夜な夜な訪れた。誰かが「ひげを生やせばよい」と言い、少年がひげを伸ばし始めたが、狐は寝ている間にそれを剃り、さらに化粧までさせた。家族は何度も僧侶や道士を呼んで符や呪で狐を祓おうとしたが、効き目がなかった。後に、正乙真人という高僧が船で済寧を通った際、少年は真人に書簡を送り、助けを求めた。

　真人が城隍（町の神）に文書を送ると、狐が自らやって来て訴えた。狐は「私は前世では女でした。この少年は僧侶でした。ある夜、寺の前を通ったところ、彼に捕まって寺の暗い部屋に閉じ込められ、辱めを受けながら17年も耐え忍び、ついには憂いに沈んで死にました。死後、冥界に訴えたところ、あの僧は地獄で罰を受けた後、生まれ変わって私に償うよう判決が下されました。その後、私は他の罪で狐に生まれ変わり、山林で百年あまりを過ごしましたが、彼と再会できずにいました。今、私は修行の末に人の姿を得て、ようやく彼がこの少年として転生していることを知り、仇を討ちに来たのです。17年経てば自ら去りますので、無理に祓わなくてもよいのです」と言うのであった。

　真人はこれを聞くと、この件にはもう関わらなかった。人は自ら悪事を働き、業の借りを作れば、自分でそれを償わなければならず、誰もそれを変えることはできない。たとえ幾度もの輪廻を経ようとも、罪責から逃れることは難しく、結局は償わねばならないのだ。

　千年近く生きた老道士、色欲に負けて身を滅ぼす

　ある老道士は山中で600年以上も修行し、人里に下りたことはなかった。ある日、県令（訳注：県知事）の一人娘の病を治すために下山した。娘の美しさを見ると心が乱れ、邪な念を抑えられず、隠形の術を使って娘の閨房に忍び込み、不義を働き、ついには命を落とすこととなった。

　唐代、檀州（現在の密雲県）に呉という県令がいた。彼には16、17歳になる娘がいて、容姿端麗な傾城の美女であり、県内で最も美しいと評判だった。

　ある年、この娘が突然病に伏し、昏睡状態になった。多くの名医を呼び、あらゆる方法を試したが効果はなかった。やがて、密雲県城北の山中に住む老道士を招いた。老道士が薬方を与えると、娘は二日で回復した。

　呉県令は感謝のあまり金銀を贈ったが、老道士は固く辞退した。そこで県令は礼のつもりで接待しようと、老道士にしばらく家に滞在するよう勧めた。

　しかし数日も経たぬうちに、娘が毎晩、寝入りばなに誰かが帷の中に入ってきて抱きしめられる感覚に襲われるようになった。そんなことが10日以上も続き、不審に思った娘は母に打ち明けた。

　県令は娘の寝室を自室の隣に移し、壁に小穴を開けて観察した。三日目の深夜、帷が開くのを見て飛び出し、その人物を捕らえたところ、なんと滞在中の老道士であった。

　老道士は後悔の涙を流し、「この劫は免れぬ運命だったようだ。もうすぐ千歳になろうというのに、金銀の関は越えられたが、色欲の関は越えられなかった。修行が足りぬ。今日この命を失うのも自業自得、お好きに処分されよ」と言った。

　県令は怒り、老道士を斬首させた。

　修行者にとって、欲を断つことは何よりも重要である。健康な体も、百脈の貫通も、すべては精力によって支えられる。淫欲を断てぬ者は、砂で飯を炊くようなもので、どれほど煮ても米にはならない。人生百年は一瞬で過ぎ去る。肉体の死は命の終わりではなく、元神は輪廻を続ける。心の真念を守ってこそ、次なる縁が続く。

　色を避けることは矢を避けるが如し

　多くの人は本来立派な前途を持ちながら、邪淫の念を抱いたり行為に及んだために、名誉や地位を失い、一生をみじめに過ごすことになる。一方、改心して善行を積み、福報を得た者もいる。

　明代に呂青という男がいた。日頃から淫らな話や人妻を覗くことを好み、30歳になる頃には極貧に陥り、二人の息子も相次いで亡くした。

　ある日、呂青は突然倒れて死んだ。実は既に亡くなっていた祖父が冥王に願い出て、一時的に呂青を冥界に呼び、懲らしめようとしたのだった。祖父は怒り、「我ら呂家は二代にわたり善行を積み、お前は本来莫大な富を得るはずだった。だが美色を好み、口も目も罪を作り、福報をほとんど使い果たしてしまった。このままでは邪淫の大罪を犯し、呂家の後継は絶えるだろう」と叱った。

　呂青は、「人妻を犯せば絶嗣（家系が絶える）の報いを受けると知っているので、口で話すか覗くだけで、実際の行為はしていない」と弁解した。

　しかし冥官は、「淫らな念を起こすこと自体が大罪であり、天神は人の一思一念を漏らさず記録する。陽世（この世）の法は甘いが、陰間（あの世）の法ははるかに厳しい」と告げた。

　その後、多くの邪淫の罪を犯した者が連れて来られ、ある者は乞食や狂人、唖者に、ある者は娼妓や盲人に、また二世を牛、十世を豚に生まれ変わると判決されていた。呂青は恐怖に震えた。冥官は、「これ以上にひどい報いもある。刹那の快楽のために人身を失うな。色を避けることは矢を避けるようにせよ」と諭した。

　陽世に戻った呂青は、善行に努め、冥界で見聞きしたことを文にして世人を戒めた。十年後、運命は変わり、二人の息子をもうけ、家は大いに栄えた。

　呂洞賓（訳注：りょどうひん、796年5月4日～？、中国の代表的な仙人）は弟子にこう教えた。「前世に淫を犯さなかった者は、今世で科挙に及第し、高位に就き、家名を輝かせる。今世において貞操を守り、淫欲を犯さぬ者は、現世の福報を得るだけでなく、来世にも良い影響をもたらす」

　神は慈悲深く、人々の中に眠る善念を様々な方法で呼び覚まし、真・善・忍という普遍の価値を取り戻させ、それを芽吹かせ育てるのである。