　【明慧日本2025年9月27日】（前文に続く）

　中国においても同様です。例えば「秦香蓮（しんこうれん）」、あるいは「鍘美案（さつびあん）」と呼ばれる物語が様々な地方劇に編曲され、民間で長きにわたり上演され続けているのは人々を教化する必要があるからです。「竇娥冤（とうがえん）」もまた同様の演劇です。一人の人間が受けた冤罪に対し、衆人が示す無関心は天からの懲罰を招きます。干ばつといった天災でさえ、実は人災としての意味合いを含んでおり、多くの人々の失徳が天災を引き起こす真の原因です。宮廷の政治生活においても、皇帝が自らの罪を認める詔（みことのり）を発することがありますが、これもまた天からの御加護を失えば、その結果が想像を絶するものであることを皇帝が深く信じていたからです。皇帝は、国家の安泰と万民の幸福に関わるがゆえに、より一層、吉を招き凶を避け、道徳において厳しく自らを律する必要がありました。無神論は、人と天との繋がり、今生と前世との繋がり、道徳の境地と現世での福報との関係などをいとも容易く断ち切ってしまいました。人が天理と天の威光に対する畏敬の念を失えば、何でも敢えて行うようになります。これこそが中共がどうしても伝統文化を破壊しなければならない理由です。中共は、中国の人々に災いをもたらし、伝統文化を滅ぼし尽くし、人を魔鬼へと変えようとしているのです。

　しかし、現代人の思想意識の中では、もはや中国の伝統文化の中に深く根付いていた「天」と「人」との繋がりについては思いが至らなくなっています。なぜなら、理論理性が「人類の理性」の代弁者となってしまったからです。現代における「人類の理性」の発展によって洗脳されてしまったため、古代に見られた、魔性や反道徳的な事柄を懲罰するような事例は、現代人から「非人道的」であると非難され、皇帝が自らの罪を認めるような行為は愚昧さの現れであると見なされるようになりました。現代人は、真に道徳的責任を放棄してしまったのです。それどころか、不徳を懲罰することに対しては多くの不満を抱き、はなはだしきは憤恨の念さえ抱く一方で、魔性を放任することについては当然のことであると感じています。現代人が抱くようになった倒錯した価値観は、正法正教が人に求めるものとは完全に正反対になってしまいました。例えば、親が子を躾けることができず、学校で祈りの活動を行うことができず、神による創造論を教えることができず、怠け者を無償で養い、はなはだしきは窃盗者でさえ仁慈の対象と見なされる、といった具合です。このような系統的な変化は、主流メディア、主流大学、主流の社会団体においても起きており、人々は普遍的に、もはや道徳的な善悪から物事を見るのではなく、人間の感情から物事を見るようになっているのです。

　神性に代わって感情で物事を見ることの深刻な結末

　感情で物事を見ることのどこが間違っているのでしょうか。もちろん間違っています！　なぜなら、現代人が言うところの感情とは、実のところ、もはや単なる感受性だけではなく、より多くは非理性、欲望、利益であり、現代人の感情の堕落に対して人間には神性があり、道徳的な原則があるからです。中国人が最も恐れるのは、人が禽獣にも劣る存在と化すことですが、その理由は、情欲を放縦すれば禽獣にも劣るようになり、まるで魔鬼のように生きることになるからです。人の情欲の放縦を支持する、いかなる理論や文化もすなわち邪悪なのです。「理論理性」の力が邪悪なものと化した時、人類はどうすればよいのでしょうか。

　これは決して大げさな話ではありません。今日の世界において、様々な形のマルクス主義（訳注：マルクス主義を経済以外の様々な分野に応用した思想）が流行し、伝統的な道徳と伝統的な秩序を破壊する役割を担うものが、社会生活における重要な力、はなはだしきは主導的な力となった時、人類は逆転し、非常に強い神性を持つ存在から、極めて大きな魔性を持つ存在へと変貌してしまうのです。なぜ、今日の人類は、マルクス主義が合理性を持つと認めることができるのでしょうか。それは、神を完全に放棄し、個人の道徳を完全に放棄したことで、人は自己を抑制する力を完全に失い、その結果、世界は公平正義の実現を口実とした暴力と不公正に満ち溢れることになったからです。この意味において、ヨーロッパ理性主義の発展はマルクス主義を育む温床となりました。ヨーロッパ理性主義の発展なくして、マルクス主義がまかり通るような社会文化環境はあり得なかったのです。

　マルクス主義は無神論を破壊的な武器として利用する邪悪な力です。マルクス主義がまかり通る原因の一つは、群衆の力を利用して個人の最大の利益を勝ち取るという見せかけの下で革命騒ぎを起こすことにあります。しかし、マルクス主義は人の良知と正常な創造性を抹殺させるため、マルクス主義が現すのは、ただ暴力と破壊の力に他なりません。その結果は必ずや毀滅です！　社会主義国家においては、武装闘争を利用するにせよ、階級闘争を利用するにせよ、「武装闘争」と「階級闘争」の目的はすべて、人類の道徳と良知を破壊することにあります。西洋においても同様であり、民主主義の灯台を自任する米国でさえ、政党が投票者数を拡大するために、正常で健全な社会勢力を抑圧し、基本原則を放棄して自らの票を確保し、政治家の利益を最大化することは、現代の民主主義という旗印の下で行われる、政治家の詐術の一つです。群衆の力を利用して、いわゆる個人の利益の最大化を実現しようとする試みの多くは欺瞞の動機を含んでいます。なぜなら、道徳が失われた人々の中では、民主主義は多数派の意見を選び出すことはできても、真理を選び出すことはできず、共通の利益を選び出すことはできても、道徳的な高潔さを選び出すことはできないからです。

　私の学術的な立場は、理性的な選択から言えば、無門無派でありたい、純粋な真理に対してのみ責任を負いたい、というものでしたから、一見するとマルクス主義には反対しているように見えました。西洋の哲学には、マルクス一派の説だけではなく、その他にも多くの派閥があります。そのため、同修から私に党文化があると指摘された時、私は同修の指摘を受け入れられず、同修は私を誤解していると感じることがありました。しかし、ゆっくりと、修煉が深まるにつれて、私は同修が言っていたことは正しく、決して私を不当に非難していたわけではなかった、と思うようになりました。

　中共は中国の伝統的知識人をほとんど跡形もなく消し去った

　中国において、知識人たちは「反右派闘争」と「文化大革命」を経験し、伝統的知識人（訳注：中国の神伝文化を体現した知識人）はほとんど跡形もなく消え去りました。反右派闘争は、知識人の精神的支柱を打ち砕き、文化大革命は、いわゆる「四旧（旧い思想、旧い文化、旧い風俗、旧い習慣）」の打破を名目として、中国人の思想的成長と知恵の選択に「禁区」を設定しました。すなわち、真に伝統文化を発揚することを許さず、真に伝統文化を研究することも許さず、伝統が求める基準に則って人としてあるべき姿を追求するという、このごく簡単な要求さえもが愚昧で時代遅れの追求とされ、中共知識人（訳注：中共の体制下で選別された知識人）から軽視され、排斥され、はなはだしきは下心ある偽の学者や偽の科学者による打撃さえ受けました。知識人たちは、中共のイデオロギーと政治的需要に奉仕するという方向性に限定されて、研究し、思考することを強いられました。このような極めて厳格な思想・学術統制の下で、中共が必要とする、マルクス主義思想を基礎とした現代の「中共知識人」が作り上げられました。私のような知識人は、その全教育課程が中共の統制下にある教科書と教師によって培われたものであり、最低限の影響としても、唯物論と無神論を当然至極のごく自然なものと見なすようになり、神に対する正しい信仰を抱くことは非常に難しくなっています。

　私が大学院で在籍していた専攻について言えば、そこには独立した思考を持つ年配の先生たちが教壇や学術研究の場で活躍していましたが、先生たちの哲学に対する思考は、一人一人を見れば一般的に皆、唯物論的なものでした。ただ、中国哲学の原典を比較的公平に研究している、ごく個別の学者だけが儒家の正統に忠実であり得たのです。そして、私も気づいていましたが、先生たちが哲学的な観点を発表しようとする時には、唯物論（訳注：精神や意識はすべて物質の働きによって説明できると考える思想）を超えることはできませんでした。その上、多くの人々は、唯物論と唯心論（訳注：この世界は精神や神といった精神的なものによって認識されて初めて存在すると考える思想）の対立を非常に絶対的なものと見ていました。中国においては、唯物論の哲学者であれば、その基本は皆、マルクスの哲学的な立場の上に立っていました。私自身は、西洋哲学をその本来の姿に則って、ありのままに研究していましたが、キリスト教に対する理解ははなはだしく浅く、真の西洋思想がどのようなものであるかを全く分かっていませんでした。実のところ、唯物論者である限り、真にキリスト教を理解することはなく、したがって、神に対する正しい信仰を持つこともあり得ないのです。

　伝統的な人間は、一般に皆、人の持つ道性、佛性、神性を認め、道徳の基礎は神の教えと自身が持つ佛性に由来すると考えていました。信仰を持たない人だけがマルクス主義哲学を信じる可能性が生じます。真の信仰を持つ者であれば、誰であれ唯物論を信じることはあり得ず、したがってマルクス主義哲学を信じることもあり得ません。西洋の現代哲学は、宗教を完全に否定するわけではありませんが、西洋の現代哲学の多くはせいぜい、理性の中において人が宗教的な需要を持つことを認めるに過ぎません。しかし、西洋の現代哲学の絶対多数は、神の存在や、宗教精神の実在性については「存在は認めるが議論はしない」という態度を取ります。神の実在性に対するこのような態度は、実のところマルクス主義哲学と共犯関係が存在します。なぜなら、哲学者たちはすでに普遍的に神を信じなくなっているからです。神を信じていない哲学者は皆、マルクス主義が利用できる対象であり、神を信じていない哲学者たちの哲学的な立場や方法論はマルクス主義の合理性を認識させるために奉仕させることができるのです。

　私はついに理解しました。およそ、神に対する真摯な信仰を欠いた、いわゆる「理性」とは、根本において党文化と同じものであると。なぜなら、神に対する信仰を欠いた「理性」は、人の精神を、神が創造されたという観念から見るのではなく、人為的な認識によって理解しようとするからです。このような理性の自負と傲慢さは、現代の西洋哲学が持つ、普遍的な特徴なのです。

　もし神を信じないのであれば、マルクス主義をより容易に受け入れてしまいます。なぜでしょうか。それは、マルクス主義が最も関心を寄せるのが現実の利益に関わる問題だからです。その他の哲学は大別して二つの類に分けられます。一つは、言葉の定義を徹底的に追及する分析哲学であり、もう一つは、いわゆる内的な意識を探究する現象学（訳注：個人の内的な意識の働きを探究する抽象的で難解な哲学）です。「分析哲学」と「現象学」の学問は現実の利益からかけ離れており、まさに人々には理解できず、会得することが難しいものなのです。

　私が学んだ哲学もまさにマルクス主義以外の哲学でした。形式上は人々や公共の生活から距離を置いていましたが、その実、皮肉にも社会に対する影響力を完全に失い、その空白地帯をマルクス主義に乗っ取られる結果を招きました。真の信仰がなければ、マルクス主義に打ち勝つ内的な力は基本的に生じ得ません。なぜなら、現実生活における実践という目標を譲り渡してしまったばかりか、かえって意識と言語の領域から神を駆逐し、宗教を放棄してしまったからです。哲学的に神の存在を否定した理論理性の役割は、実のところ、マルクス主義と一体となって神を否定する仲間となり、マルクス・レーニン主義と相互に補完し合って、神に反する完全な文化的総体システムを構成していました。

　三、現代哲学は知識と文化の虚構である

　西洋の現代哲学における二つの分科、すなわち分析哲学と現象学を深く理解するためには、この二つの哲学の方法論的な基礎を理解しなければなりません。表面上、現代哲学は多種多様に見えますが、方法論の上から見れば、根本的には分析哲学と現象学の二つの大きな体系に分けられます。すなわち、分析哲学と、内的な意識を探究する現象学です。全世界の、神を排除するほとんどすべての専門の哲学者は基本的にはこの二大体系に属しています。そして、方法論において分析哲学と現象学の二つの体系の「神を否定する」という方法に厳格でなければ哲学の専門領域に入ることは不可能なのです。

　言語分析哲学の対象は言語です。大別して二つの源流があり、一つはフレーゲ、ラッセル、そして前期のウィトゲンシュタインに由来する論理分析哲学であり、もう一つは、ムーアと後期のウィトゲンシュタイン哲学が創始した日常言語分析哲学です。分析哲学が分析哲学と呼ばれる所以は、分析哲学が決して言語の限界を超えることなく、決して真の神に触れることも、神の啓示を認識しようとすることもなく、むしろ、神に関する「言葉」と、それらの言葉が文化に与える作用を研究するからです。

　つまり、現代の分析哲学の方法論的な基礎は、実在論（訳注：私たちの心や意識とは独立して客観的な世界[実在] が存在すると考える立場）の上では神を認めず、厳格に神を排斥する、というものです。もちろん、現代の分析哲学は実在論の上での唯物論をも排除します。簡単に言えば「物質」と「神」はどちらも言語現象であり「言葉」なのです。物質現象は、基本的にはすべて「科学の言葉」の範囲に属し、一方「神」は「宗教の言葉」の範囲に属します。前者は「記述的な言語システム」に関わる事柄であり、後者は「生活言語システム」の一つの分科です。分析哲学の方法は、言語現象から一歩たりとも超越することは絶対にあり得ません。では、人類のありとあらゆる事物を言語現象として研究し、言語現象の範囲を超えないとするならば、一体どのように研究するというのでしょうか。

　分析哲学の根本的な研究方法とは、言語現象に対して実証的な研究を行う、というものです。例えば「実在とは何か」と問うとしましょう。言語研究は言語システムを研究しなければなりません。もしあなたが「創世記と宇宙進化論にはどのような関係があるのか」と尋ねたとすれば、分析哲学は「創世記は宇宙の起源を説明するための一つの宗教的叙述であり、宇宙進化論は、宇宙の起源を説明するための一つの科学的な叙述です。この二つの叙述の方法はそれぞれが従うルールが異なります。科学の言語構造はどのようなものか、宗教の叙述の構造はどのようなものか、これらはすべて、人類の言語運用能力や、好み、あるいは習慣といった要素によって構成されています（訳注：神の啓示も、宇宙の法則も、その起源をたどればすべて「人間の能力、好み、習慣」に行き着いてしまう）」と答えるでしょう。言い換えれば、人類は言語を応用して叙述を編んでいるのであり、ただ、ある叙述は人の好みに適合するため長きにわたって流布することができる、というわけです。科学も宗教も、ともにこの叙述の方法が流布したものです。分析哲学は実証的な分析から出発し、科学と宗教の言語がなぜ人類の支配的な地位を占めることができたのかを研究します。はっきり言えば、科学も宗教もともに言語による構造物であり、人類が繰り返し運用し、繰り返し豊かにしていくことによって初めて形成されたものなのです。言語なくして、人の知識はなく、人の文化もないのです。

　こうして、宗教を信仰する人にとっては、神は自ずと実在し、真実なるものとなります。科学を信仰する人にとっては、自然界が真実であり、物理法則が真に存在するものです。しかし、本質的にはいずれも人類が言語を応用して行う言語活動の産物なのです。ただ、人は人間が作り出した様々な言語システムを繰り返し運用し、言語システム無しではいられなくなったため、言語システムが実在となり、はなはだしきは唯一の実在となったのです。分析哲学の手品は、ありとあらゆる問題を言語の問題へと変えてしまいました！　現代の分析哲学の急所は、人類の信仰の真の基礎を取り消し、人と神との真実の繋がりを断ち切ってしまった点にあります。

　（続く）