　【明慧日本2025年12月4日】（明慧の窓）それは風もなく日差しの穏やかな朝でした。私たち数人はいつものように動功の煉功を終えた後、公園の観覧席で静功を煉功していました。穏やかな煉功音楽に合わせて、脚を組んで坐禅していました。周囲はとても静かでした。突然、響き渡る（歌）声が耳に飛び込んできました。「あの遥か遠い場所に　良い娘さんがいる、人々は彼女のテントのそばを通ると　みな振り返って名残惜しそうに眺める……」

　私は目を開けて見渡すと、70歳前後の中国系の男性が、観覧席の右手側の手すりの近くに立ち、私たちに背を向けて、思いきり声を張り上げ、真剣に歌っていました。この歌は中国出身の人なら誰でもよく知っている歌で、男性の声はとても澄んでいて、聞いていて心地よいものでした。この年齢で、まだこれほどの歌声なのですから、いつもなら私は心の中で間違いなく褒めたことでしょう。けれどその日は、そうしませんでした。

　私たちはこの広々とした観覧席で煉功してすでに3年になります。この観覧席は、公園内の下にあるいくつかの競技場に正対しており、上には大きな屋根があって、日差しを遮ったり雨を防いだりできます。ですから、急に雨が降ると、しばしば競技場の周囲の遊歩道で歩いたり走ったりしている人たちが、雨宿りのために観覧席へやって来ます。彼らは、上で坐禅している人がいるのを見ると、静かに脇へ行ってストレッチをしたり脚を伸ばしたり、あるいは階段に座ったりします。子ども連れの親たちは、私たちのそばを通るとき、口元に人さし指を立てて「シーッ」と、子どもに静かにするよう示します。これが普通のオーストラリア人の反応です。

　そして、もし遅れて来た人がプラットフォームで太極拳を始めたら、私たちは自発的に反対側へ移動し、煉功音楽の音量も下げます。こうして互いに相手を思いやり、できるだけ邪魔しないようにしてきました。以前、人数の多いボクシング教室に出くわしたことがありますが、彼らが場所を使いたい時は、私たちは進んで場所を譲りました。

　この年配男性は、静かに坐禅している人がいる場所へ来て、大声で歌い始め、自分の行為が不適切であることに全く気づいていないようでした。その時、私の心に浮かんだのは、場をわきまえず、他人のことを考えない振る舞いを、私は以前にも中国から来た一部の人たちの中に見たことがある、ということでした。まるで周りの人の必要や感情に対する認識がないかのようなのです。そのことで、私はさらに、地元の人たちが一部の中国からの旅行者に対して抱いている不満を思い出しました。たとえば、道端に痰を吐く、公の場で爪を切る、電車内で大声で電話する、食事中に口を閉じない、人の通り道をふさいで話し込む、などです。

　今振り返ってみると、当時私がその年配男性やあの中国人観光客に対して抱いたあの一念は、十分に善ではありませんでした。というのも、それは表面に見える彼らの振る舞いだけの問題ではなく、すべての出来事には根源があるからです。本当の原因はそうです。中国では何十年もの間、野蛮な共産党文化が古来の伝統的な中華文化に取って代わり、その洗脳のもとで、中国の人々は皆、被害者なのです。そう考えると、私は当初、その共産党文化を反映したような行為への軽蔑から、これらの尊い中国人が経験してきたことへの理解へと心が変わりました。彼らの大変さを感じ取り、心から彼らを包み込むように受け入れ、そして憐れむ気持ちさえ生まれたのです。

　共産党文化の話題に触れると、幼い頃から成長する過程で、私は共産党幹部だった父の言動にもその共産党文化の表れを見てきました。そのため、私はしばしば父の言動を好ましく思えませんでした。親戚の家へ休暇で出かけた時など、父が他人のことを考えず、自分には特権があるかのように振る舞う姿に、私は心の中でどうしても納得できないことがよくありました。ところがある朝、父は私より30分早く仕事へ出かけたはずなのに、私がバス停に着くと、父がまだそこにいて、混み合った人波の中で、必死にバスのドアからだ押し入ろうとしていました。しかし乗り込むことはできませんでした。父のどうしようもないという表情を見たとき、私はふと同情の気持ちが湧きました。父も本当はつらいのだと思いました。

　思い返せば、両親がオーストラリアへ旅行に来たとき、父は釣りが好きだったので、私はよく車で近くの大きな川へ連れて行って釣りをさせていました。ある時、父が釣りをしている最中、うっかりして川辺の浅い水溝に滑り落ちてしまいました。そばにいたオーストラリア人の男性がすばやく反応し、すぐに父を引き上げてくれました。ところが、父が岸に上がって最初に発した言葉は、「私たち共産党員は死を恐れない！」でした。私は本当に驚いてしまい、「お父さん、もう脱党したんじゃなかったの？」と言い、私を父は見ましたが、答えませんでした。どうやら、この共産党文化が中国人の思考に染みついている度合いは、本当に浅くはないようです。私は大きなタオルで父をくるみ、車を運転して家へ戻りました。

　先ほど2人の年配者について話しましたが、この話題で、もう1人の年配男性のことも思い出しました。この男性はバイオリンを教える教授で、やはり中国出身です。若いバイオリニストの演奏技術を高めることに熱心で、独自の教育法を確立し、教育の過程で多くの人材を育ててきました。この男性はとても真摯で、授業料についても欲をかかず、私はこの男性を大いに尊敬しています。

　その後、私が「鈴木教育法」に触れるようになってから、ある疑問がしばしば頭に浮かぶようになりました。なぜ、同じ二十世紀中頃に成功したバイオリニストであるにもかかわらず、日本の鈴木教育法は世界中に広まったのに、この優れた中国人のバイオリン教授の教育法は、遠く及ばず普及しなかったのか、ということです

　ある日、教授が学生の保護者と雑談していたとき、教授は自分が国外のバイオリン演奏書を何冊も翻訳・出版したことに触れました。その中には、有名なイワン・ガラミアンやその他著名な作曲家の本も含まれています。ある時、教授は国外の有名なバイオリニストに電話をかけ、「あなたの本を中国語に翻訳して、中国の人々に普及させました」と伝えました。するとその西洋のバイオリニストは「私はまだあなたに著作権を許可していません！」と言いました。

　教授がこの話をするとき、それを美談のように語っていました。しかし、西側の民主国家で生まれた人が聞いたら、非常に驚くでしょう。なぜなら、著作権を尊重することは常識だからです。もちろん、ここで教授本人をどうこう言うつもりはありません。私が言いたいのは、中国というこの大きな環境の中で、優れた教師であっても、さまざまな理由で、さらに偉大な業績を成し遂げることが制限される可能性がある、ということです。

　かつて中国の学者たちは、著名な銭学森に対して「なぜ我が国の学校は、優れた人材を育てられないのか」と問いかけ、議論を交わしました。

　張維迎教授はこう述べています。「問題は明らかに私たちの体制と制度にあります。創造力は自由に依存します！　思想の自由と行動の自由です。中国での基本的特徴は、人の自由を制限し、人の創造性を抑え、企業家精神を抑圧することにあります。中国人が最も創造力を発揮した時代は、春秋戦国時代と宋の時代です。これは偶然ではありません。この二つの時代は、中国人にとって最も自由な時代でもあったのです」

　「過去30年以上、中国経済は世界的に注目すべき成果を収めてきました。しかしこの成果は、西洋世界が過去300年にわたって発明・創造してきた技術の上に築かれたものです。中国の高度経済の成長を支えた重要な技術や製品はすべて他者の発明であり、私たち自身の発明ではありません。私たちは単なる利得者であって、イノベーターではありません。他人が築いたタワーの上に小さな屋根を載せただけであり、驕る理由など全くありません！」

　『党文化の解体』という本にはこう書かれています。「中国共産党文化には、進化論的な弱肉強食の部分が含れており、人々が互いに潰し合うことを奨励しています。個人を尊重することを提唱する部分はなく、粗野を宣伝し、個人の行動において他人を顧みず、いい加減で、我が道を行き、便利なように振る舞うことを良しとしています」

　「中国人は以前からこうだったのでしょうか？　中国は『礼儀の国』と呼ばれ、すでに数千年の歴史があります。中国の『礼・楽・射・御・書・数』という伝統六芸のうち、『礼』が第一であることは、中国人が礼儀を重んじる伝統を十分に示しています……。歴史上のいくつかの有名な『家訓』や『学規』には、日常の衣・食・住・行や人との接し方などに関する礼儀の規範が数多く記されています」

　独立した思考を奨励し、信仰を尊重する自由な社会は、神が授けるような智慧を持つ発明家を育むことができます。一方、思想を束縛し、言論を封じ、高圧的に統一思想を押し付ける社会は、専門技術の熟練者や、知的財産権の概念に乏しい人々しか生み出しません。比べてみると、どちらの文化がより遠くまで広まり、人々の心をつかむことができるでしょうか。